Velká Pardubická 1

 さて、いよいよメインレースのお時間です。第7レースは15時40分発走で、メインレースは16時40分発走と、実に1時間の間があります。この間延々と馬はパドックを回り続けていますが、本馬場入場と出走馬の紹介、さらには丁寧な返し馬があったりするので、レース前のわくわくした時間が長く続くと考えればお得なのかもしれません。買ったはいいものの出馬表以外はスルーしていたレースカードを眺める時間もありますし。ちなみにレースカードにはご丁寧にQualification Raceの結果に加えて、出走馬全頭と騎手全員の紹介をチェコ語と英語の両方で併記しているというサービスの良さを発揮しています。他にもレース展望とか、色々小ネタも書いてあるみたいですが、チェコ語なので読めません。

 いきなりパドックにZarifが出てきてテンション上がります。今年で12歳になる大ベテラン。Velká Pardubickáはこれが実に6回目の挑戦となります。これまでの5回の挑戦ではいずれも上位争いに食い込んでおり、Pardubice競馬場でのレース振りは実に安定した円熟味のあるもの。飛越技術の高さ、レースの安定感は出走馬中でもトップクラスのものを誇ります。しかし、近走はややパフォーマンスを落としており、12歳という年齢も考えるとこれがラストチャンスに近いだろうと思っていたこともあり。

 ちなみに、この年からゼッケンには馬番だけでなく名前も併記されるようになったとのこと。Velká Pardubickáだけですが、この試みはいいですね。日本の中央競馬では一般的ですが、海外障害競馬でこのように丁寧に名前まで書かれていることは殆どありません。

 出走馬中唯一の牝馬であるDelight My Fire。チェコ国内やポーランドでの活躍のみならず、イタリアやイギリスにも参戦した経歴のあるチェコの名牝。ポーランド最大のSteeplechaseであるWielka Wrocławskaは2015年と2017年に2回制しているほか、2016年にはPardubiceで前述のCena Labe(Listed)にて名牝Arcioneを下す快挙を成し遂げています。2017年のVelká Pardubickáでは不良馬場の中、最後まで踏ん張り3着に入っています。ただし今年で9歳。やはり近走はパフォーマンスを落としていたこともあり、そろそろ牝馬としては繁殖入りも考えるお年頃。

 おそらく逃げるであろうBridgeurも出てきました。深いブリンカーが特徴の馬。レースカードにも"He is know for his attacking front running strategy"とか書かれているように、要するに前半から積極的にペースを上げて引っ張るのが持ち味です。Velká Pardubickáは実にこれが3回目の挑戦。そのいずれにおいても積極的な先行策を見せてきました。障害はこれまでに19戦して未勝利なのですが、ここでまさかの初勝利と大金星を狙います。

 Mazhilisも出てきます。2016年にイタリアSteeplechaseの最高峰であるGran Premio Merano (G1)を勝利した馬。Gran Premio Merano (G1)の総賞金は25万ユーロ(約3000万円)、1着賞金は11万ユーロ(約1322万円)と、この辺りの障害競走としては破格の賞金額を誇ります。Mazhilisは当時は低評価でしたが、2013~2014年とGran Premio Merano (G1)を連覇したチェコのAlpha Two、フランスのAllen Voran、アイルランドのAlelchi Inoisといった国際色豊かなメンバーを破る快挙を成し遂げていました。昨年からPardubiceのCross Countryに矛先を向けており、どうにも惜敗続きで勝利まで手が届いていなかったのですが、一度はイタリアで大きな勲章を手にした古豪が新たな栄光へと挑戦します。

 なお、イタリアSteeplechaseにはチェコ調教馬が多く参戦していますが、どちらかというとそのような馬はチェコ国内よりはイタリアSteeplechaseを専門に走る場合が多いようです。Mazhilisもその例にもれず、以前はイタリアSteeplechaseを中心に使っていました。従って、PardubiceのCross Countryの経験は比較的浅く、今回が5戦目となります。

 こちらはSztorm。昨年のポーランドSteeplechaseでは無敵を誇った馬で、Wielka Wrocławskaを含む3戦全勝という成績を残しています。レースの後半から一気に加速を掛けて後続を突き放すレースが持ち味で、小回りのWroclaw競馬場のSteeplechaseで自在に加速する機動力で他馬を圧倒してきました。鞍上のMarek Stromský騎手は2回もVelká Pardubickáにて1位入線となっているのですが、コースを間違えたとか馬から禁止薬物が検出されたとかで、いずれも失格になっています。

 ...などと全馬紹介してもいいのですが、キリがない上にホームページの容量も不安なので、こちらに譲ります。あとはモーメントにぼちぼち上げていきます。

 さて、そんなわけで馬が周回しているのを眺めていたら、なにやら立派な馬服を着た馬が出てきました。静かに周回している他馬と比べると妙にわちゃわちゃした馬ですが、身体つきを見るとそこそこ年齢は重ねているようで。なんだろうなあと見ていたら、チェコ語の全く分からないアナウンスのなか"Orphee Des Blins!"なる単語が聞き取れます。そう、この馬がまさにあのOrphee Des Blins。Velká Pardubickáを2012年、2013年、2014年と3連覇したチェコの名牝、名馬中の名馬です。繁殖能力の問題があったようで残念ながら産駒は見られないのですが、引退後はのんびり過ごしているそうです。

 そんなこんなで騎手も出てきて騎乗します。昨年の勝ち馬Tzigane du BerlaisとJan Faltejsek騎手。Tzigane Du Berlaisは昨年、多数の馬が直線を向いて叩き合うところを、外側から強烈な末脚を繰り出して勝利してきた馬。直前のQualification Raceではまさかの凡走に終わりましたが、昨年このレースを制したコンビで2連覇に挑みます。後ろにいるのはRebelino。2015年は2位入線でしたが、1位入線のNikasに禁止薬物が検出された影響で失格、結果的に繰り上がりでこのレースを制した馬です。

 故障で1年近い休養を乗り越えてきたTalent。高い能力を持った馬ですが、故障で昨年から今年にかけてどうにも順調に使えないところがありました。鞍上はLeighton Aspell。イギリスGrand National (G3)をPineau De Re、Many Cloudsで2回も制している超一流ジョッキー。近年はスロバキアの調教師Brečka Jaroslavと交流があるらしく、ちょくちょくチェコ・スロバキア・イタリア障害競走にも顔を出しています。その騎乗技術は言うまでもなく世界最高レベル。今回は初めてKabelková Hana調教師の管理馬に騎乗します。Velká Pardubickáは昨年に続き2回目の挑戦。

 国内勢で最も勢いがあったのがAnge Guardian。大きな流星が特徴的な馬ですが、地味に流星はまっすぐではなく、鼻の部分では半分白く半分は黒いという面白い顔つきをしています。今シーズンは3戦して3勝。うちQualification Raceを2勝しています。2016年のVelká PardubickáにてCharme Lookの2着に入った馬ですが、11歳となった今年はますますそのパフォーマンスを上げてきています。ただし、昨年もQualification Raceを2勝しながらもVelká Pardubickáでは案外な6着に終わっていたこと、前走のQualification Raceでは勝負所でややズブさを見せていたということもあり、ここでは4番人気という評価でした。

 そんなわけでスタンドに移動します。エリアDはパドックからはスタンド方向に移動してすぐの場所にありますが、さすがにこのレースが近くなると大混雑。とはいえ身動きができないほどではないので、人の流れについて行けば問題はありません。Grand National (G3)のときのAintree競馬場も移動ができないわけではないので、この辺りは人権が保たれています。日本のように新聞紙を敷いて座り込んでいるおっさんがいるわけでもありませんし、猛然とダッシュしている人がいるわけでもありません。ただし、立見席に関しては人数制限がかかっているかどうかは良くわからないので、これ以上人が増えたらどうなるかはわかりません。

 Orphee Des Blinsを筆頭に本馬場へと馬が入ってきます。一頭一頭、馬名と騎手が紹介されます。場内からは大歓声。

 今年はイギリスからも一頭参戦していました。Velká Pardubickáは国外からも参戦が可能で、一昨年にあわやのシーンまで作ったフランスのUrgent De Gregaineをはじめ、イギリス、フランス、アイルランドといった国から参戦馬を集めることがあります。イギリスからの参戦馬はCharlie Mann調教師が送り込んできた2014年のLambro以来ですね。Pardubice競馬場で行われるQualification RaceはNational Listedですので、チェコ・スロバキア調教馬以外の場合は4800メートル以上のSteeplechaseまたはCross Countryを完走することでVelká Pardubickáへの出走権を得ることが出来ます。日本には4800メートル以上の障害競走はありませんので、日本国内でのみ走っている限り、オジュウチョウサンは残念ながらこのレースには出走できません。写真はイギリスからの参戦馬であるRathlin Rose。10歳以上限定戦であるVeterans' Chase Seriesでお馴染みの馬ですね。Cross Countryの経験はありませんが、David Pipe師はこの年はベルギーのWaregemにも馬を送り込んで好走させている実績がある以上、それなりの準備はしてきたものと考えられます。ここでも連下候補くらいの評価はされていました。

 返し馬ということで身体をほぐしつつ、障害を眺める各馬。ちなみにこの障害、返し馬では使用しますが、本番では使用しません。

 軽く助走をつけ、続々と障害を飛越します。結局前評判としては、Tzigane Du Berlaisが1番人気、続いてTheophilos。それから少し離れてTalent、Mazhilis、さらにAnge Guardianといったところでしょうか。それからSztormにイギリスのRathlin Rose。それ以降はやや離れました。

 さて、いよいよレーススタートです。


Pardubice Racecourse 10                                         Velká Pardubická 2